「あいたたた…」
おそらく飛び回っていた家具に当たったのであろう、痛む手足をさすりながら、ころねは起き上がった。
「はぁ、これが異世界ッスか」
ころねは疑いもせずに、この場所をそう決めつけた。
少なくとも自分の部屋ではない。
空は青い。
草は緑だ。
ころねの周りは木々で囲まれていて、数歩の距離に小道がある。
その小道を辿った先に、城壁のようなものがある他には、特に変わったものはない。
目の前を飛び回っている、小さな生き物を除けば。
「あー失敗した。街に飛ぶはずだったのになぁ」
小さな生き物は、頭を抱えながら右へ左へ、羽をぱたぱたと動かして飛んでいる。
「あの、妖精さん、どうなってるッスか」
「ひゃあ!?」
ころねが話しかけると、小さな生き物は飛び跳ねて驚いた。
そして顔を隠して叫ぶ。
「どうなってるッスかってこっちのセリフよ!」
「え、なにがッスか。なにぶん私、異世界転生ははじめての経験でしてーー」
「そうじゃなくて! 股間! 股間の変なやつ!」
悲痛の叫びに、ころねは自分の股間を見て、
「ああ」
ポンと手を打って笑った。
「これはバ」
「聞いてない聞きたくない」
ころねの言葉を遮り、小さな生き物は後ろを向く。恥ずかしさで顔も見れないといった様子であった。
「そんな事言わずに、乙女はこれで夜を楽しむッスよ? あ、でも妖精さんのサイズは難しいか~残念ッスね」
心底悲しそうにするころねに、「残念で結構!」と泣きそうな声が返ってくる。
「ーーとにかく、挨拶もまだだったわね。あたしは妖精エアディアーサ。エアでいいわ」
くるりと、気を取り直して自己紹介する妖精、エア。
「エアちゃん」
「ちゃんはやめて」
「エアたん」
「それもやめて、なんか気持ち悪い。ああ、もう! エア! エアって呼んで!」
「エア」
「なによ」
ささやくように呼ばれて、エアはころねをみた。
「呼んだだけッス!」
「用もないのに呼ぶな!」
なんなんだこいつは、調子が狂う、と、エアはまた暴れだす。
「エア!」
「だから用もないのに呼ばないでーー」
振り向いたエアは、直後固まった。
そこには下半身丸出しのころねが、5人ほどの男に囲まれていたのだ。
それだけ聞くと誤解を招くが、下半身丸出しだったのは元からである。
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