【時津風】はじまりのはじまり2

 風が、止んだ。
 ゆっくりと目をあけると、そこは森の中だった。
 円真まどまがいない。家の中ではない。
「円真? お母さん?」
 瑠佳るかは不安になって小声で二人を呼んだ。
 返事はない。
 太陽が落ちようとしていた。
 まだ朝だったはずなのに、瑠佳は戸惑う。
 それだけ気を失っていたのか?
 ――いや、違う。
 ここは自分の世界ではない。
 幼いながら、瑠佳はわかった。自分がとんどもないことに巻き込まれたことに。
(とにかく、休めるところを探さなきゃ)
 瑠佳はすぐに冷静になった。
 嘆いていたって、なにも始まらないのは、わかっている。
 歩き出そうとしたそのときだった。
パシュッ
 なにか鋭い矢のようなものが、瑠佳の髪をかすめて地に刺さった。
 風が、ざわっと巻き上がった。
「誰?!」
 瑠佳は構える。
 それが一体なんなのかわからなかったが、決して友好的なものではないことは確実だった。
 目を閉じる。
(どこにいるの――)
 敵がどこにいるのか知りたい。そう「想った」。
 全神経が、右上の木の上に集中する。
「そこですね!」
 カッっと目を見開いて、そちらに向かって火の魔法を放つ。
 火の玉は勢いよく、それにぶつかり、消えた。
 ――防がれた。
 煙が消えていくと、木の上に人が座っているのがわかった。
「…驚いた」
 灰色のフードと衣装を纏った男は、面白そうに笑う。
「呪文無しとは。思想魔術士ですか」
「そう、僕は思想魔術士の瑠佳。あなたは」
「私は――」
 さぁぁぁと、冷たい風が、通り過ぎていく。
「私は昨夏さっか、風の魔族です。よろしくお願いしますね、瑠佳」
「魔族? 魔族は滅びたはずじゃ」
「魔族が滅びる? 何を言っているんですか。というか、それはこっちの台詞ですよ。思想魔術士は、もういないはず」
 どういうことだろう。
 魔族がいて、思想魔術士がもう・・いない?
「ちょっと散歩のつもりが、面白いものを見つけてしまいました。瑠佳、今日は挨拶だけにしておきます」
「ちょっと待って、色々聞きたいことが――」
 自分を攻撃してきたとはいえ、話の出来る相手。
 聞きたいことが山ほどあった。
 しかし、昨夏はもうそこにはいなかった。
 心細くなった瑠佳だったが、森の先に村があるのが目に入る。
(あの村に行こう)
 重い足取りで、瑠佳は村へと向かったのだった。

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