【時津風】はじまりのはじまり1

気持ちの良い朝だった。
母が朝食を作っている間に、少し散歩をしよう。
そう思った瑠佳は、家の周りを歩いてまわった。
瑠佳るかは十歳の思想魔術士。
背は低く、くりくりと丸くて大きな目。髪は短い、金髪碧眼の男の子だった。
この時代に、珍しい魔法使い。
黒い術用のローブを、いつも纏っている。
里の人々は瑠佳を嫌った。
わからないものは、気持ちが悪い。
だから魔法使いは嫌われる。

父は昔から旅が好きで、家にいることはほとんどない。
母は、瑠佳のことを考え、人里から離れた場所に家を建てた。
まわりは何もない、木ばかりだ。

それでも瑠佳はそれでよかった。それがよかった。
自然に囲まれ、瑠佳は毎日本を読んでいた。

遠い昔の物語だ。
神がたくさんいて、いろんな種族が仲良く暮らしていた。
魔法使いもたくさんいたらしい。

「瑠佳様、瑠佳様ですね」
突如、声がした。
「誰?」
振り向くと、着物を羽織った、美しい女性が立っていた。
羽衣が、彼女を守るように揺れている。
「探しました…」
女性はふらふらと瑠佳の元へ歩いてきた。
それがあまりにも頼りなかったので、瑠佳は慌てて女性を支えて、その場に座らせた。
「あの、どちら様…大丈夫?」
「私は大丈夫です、まどま…円真まどまといいます。あの、あれ…?」
円真と名乗った女性は頭を押さえて苦しそうにしている。
「ど、どうしたの」
「あ、記憶が…」
「記憶? 思い出せないの?」
「…はい」
困って俯く円真に、瑠佳も困り果ててしまったが、しばらくして、思いついたように手を叩いた。
「うちにおいで! 僕は思想魔術士なの。君の記憶、僕がみつけてあげるよ」

思想魔術士。
術士が「想った」ことを、「現実にする」魔術士のこと。
つまり、魔法を呪文なしで使うことができるのだ。
想いの力によって、魔法の威力は異なる。
「あいつ死ねばいいのに」と思っても、それが本当に心の底から思っていなければ、死んでしまうことはない。かなりなんでもありのようで、想いの大きさによっては、なんでもできる魔法ではないということだ。

その日から瑠佳は、毎日円真の記憶を探した。
(円真の記憶、戻って欲しい――!)
強くそう願うが、なかなか魔法は発動しなかった。
しかしある日、それは起きた。
「瑠佳様! 思い出しました! 来てください、助けて下さい、私達の世界を――」
「え? それってどういう」
言い終わる前に、強い風が、二人を包んだ。

「瑠佳? 円真? 大丈夫?」
術室でものすごい音がしたので、母が慌てて駆け付けたが、そこに、二人の姿はなかった。

カテゴリー: 時津風 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>